無溶媒プリンテッド有機エレクトロニクス製造プロセスの開発

摘要

ウェアラブル，IoT (Internet of Things)などの用語に象徴されるように，近年，人間の日常生活に親和性の高い電子デバイスが登場するようになってきた.現在のウェアラブルデバイスは，スポーツ，ヘルスケアの領域で製品が開発され始めている.現状では，それらのウェアラブル製品は，従来型のエレクトロニクスを軽くて小さく作ることに主眼を置いて開発されているものの，十分な「ウェアラブル性」を獲得するには至っていない.日常的に身に付けるものプラスアルファでなく，誰もが每日必ず身に付ける衣服，誰もが必ず身近に使うさまざまなプラスチック製品などにェレクトロニクスが浸透すれば，それは人間の日常生活に大きな変化を及ぼす.そのようなフレキシブルデバイスを生産するためのプロセスとして，プラスチックフイルム上への印刷プロセスが研究されてきた.印刷プロセスによる半導体デバイス作製では，有機溶媒に半導体材料を溶解してインク化し，それをフレキシブルフイルム上に印刷することによって，高スループットでデバイスの印刷を実現する.しかし，従来型の印刷法は，有機溶媒を用いて有機半導体をインク化する過程なしには成立しない.有機半導体を高濃度で溶解でき，各印刷方式に適する粘度を持つ有機溶媒には特殊なものが多く，引火性，毒性などの危険因子を有するもの，法的に使用規制がかけられているものも多い.法規制については，EUが強い規制をかけており，産業的にも，環境への配慮の点からも，今後，世界的にこれに準拠していかざるを得なくなると考えられる.さらに，より身近な問題として，揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds : VOC)を原因とする光化学オキシダントの生成が日本および世界の大都市圏で長い間問題となっている.経済産業省Webサイト~1）に掲載されている，環境省が平成19年に行ったという調査によると，平成12年度のVOC排出量は146.5万トンにおよび，光化学オキシダントの低減目標を達成するためには，平成22年度までに平成12年度比で3割のVOCを削減する必要があるとされていた.同調査によれば，平成12年度のVOC発生源は，塗料，洗浄剤，接着剤，印刷インクが全体の75%を占め，そのうち印刷インクは9%とされている.印刷インクが主要因というわけではないが，排出の3割低減を達成しようとするならば，無視できない要因の一つである.