DNA放射線損傷-放射線照射直接効果のモデル化-

摘要

1．はじめにⅩ線および，α，β，γ線などによる放射線照射によって誘起されるDNA損傷は，細胞の死　 増殖能の消失，突然変異，腫瘍細胞への形質変換といった種々の生物学的変化をもたらす．この生物効果には非常に多くの過程が含まれている．放射線のエネルギーがDNAに与えられる物理的過乱　 そのエネルギーによって生成したイオンやラジカルの反応と，さらに引き続いて起こるDNAの主鎖の切断を含む化学過程，その損傷に対して生物が持っているさまざまな極めて巧妙な修復過程，さらに修復できなかった損傷が原因となる細胞死や突然変盟が起こる生物的過程がそれに続く．これらすべてを理解するのが放射線生物学の最終目標であり，放射線による病治療のみならず，生体における放射線の影響，生命の起源進化における放射線の役割1）など，放射線科学にとって重要な研究課題の一つである．