光合成光捕集アンテナ錯体における超分子色素構造体の構築

摘要

光合成反応の光捕集アンテナ錯体は可視部の光エネルギーを受け取り，これを酸化還元反応のエネルギー源として用いる，生物のエネルギー固定反応の最初の重要な機能を担っている．可視光エネルギーを効率よく吸収するために大環状テトラピロール骨格からできたクロロフィルを用いて，吸収したエネルギーを励起寿命（1，1ナノ秒）の間に反応中心錯体に効率よく運ぶ必要がある．弱い入力エネルギー状態でも光合成反応を可能にするよう，大きな吸光度を有するクロロフィルを多数配置している．ここで問題は，単に色素を密度濃く並べたのでは，励起エネルギーのトラップが起こって吸収した光エネルギーが失われてしまう点にある．そこで光捕集系はクロロフィルを一定の構造に配列して，（反応中心の数は光捕集系に比べ少ないので）遠く離れた場所で受け取った光エネルギーも速やかに（助起時間内に）反応中心錯体に伝えている．自然が提示している色素の配列構造は進化の産物としての優秀解であることには疑いの余地はないので，自然の原理を理解し，これを単純化することに成功すれば光エネルギーを効率よく集め，ロスなく伝える人工系ができると思われる．その成果は光電変換，光増感反応，分子フォトニクス，分子エレクトロニクスなど各種材料への利用が期待される．