システムを考える，システムで考える：システムの解析と設計－統計力学的アプローチのココロ

摘要

モノの世界では，微視的な基本要素が多数集まり巨視的システムを構成する場合にはその数量に応じて重くなり，かさ高くなるという実感がある．また，それによって何が生じるのか，多くの場合客観的に眺めることができる．というよりはむしろわれわれの日常は巨視的世界であり物理学をはじめとする多くの自然科学では微視的世界を覗き見ることに多大なコストを払っているのである．けれども，コトの世界はそうではない．コトの問題の多くはプログラム上に実装されるが配列の長さを10倍にしたところでパソコンの重さは変わらない．もちろh，メモリがオーバーフローしてコアダンプする，計算時間が爆発する，といった形で数量の変化を実感することはできる．しかし，それは巨視的世界を覗き見たことを意味しない．むしろ，量の増加に伴いわれわれの前に分厚い壁がそびえたち巨視的世界への覗き窓が遮断される，そういったイメージの方がしっくりくる．もちろh，個別の研究，個々の研究者によって差はあると思うが，総じて情報科学と自然科学では「沢山ある」ということに対する捉え方が随分と違うのではないか．それは上で述べたような両分野での事情の違いが反映されているのではないか．そしてもし情報科学に対しても統計力学的アプローチが有効であるとすればその勘所は小手先の計算テクニックなどではなく分野の事情を反映した「沢山ある」ことに対する心構えのようなところにあるのではないだろうか．そういった理由から，以下ではモノの科学においてミクロ（微視的世界）とマクロ（巨視的世界）を橋渡しする際のポイントとされる考え方について紹介しようと思う．