金属－水素系の磁場制御

摘要

水素吸蔵合金は水素貯蔵材料や水素電極材料として広く使われている．水素含有量によって平衡水素圧P{sub}(H{sub}2)や電極の平衡電位Eが決まるが，温度によっても変わる（実際には吸脱蔵の履歴にも依存する）．本節では，平衡水素圧と平衡電位が他の環境因子である磁場によっても変えられることを紹介する．この問題は「物質機能を磁場で制御する技術」の基盤となり，「磁場は化学系へどのように影響するか？ 」というサイエンスにも発展している．まず，図1に示すような思考実験を行ってみよう．全く同じ材質の電極が一様な電解溶に浸つている（a）．この状態では両電極間に電位差（電流を流さない開放電位差）は生じない．これは当然である．ここで，一様な静磁場（b）ないし勾配磁場（c）を印加する．はたして，両電極間に電位差が現れであろうか．答は「電位差は一様磁場（b）では生じないが，勾配磁場（c）では生じる」である．電流を流していないのであるからローレンツカは効かない．また，溶液中の個々のイオンに働くファラデーカ（勾配磁場による磁気力）は問題にならないはど（溶液分子の熱運動に比べ）弱い．答えの説明は後で述べることにする．