白鳳の金銅仏-その2/深大寺釈迦如来像（1）

摘要

古い大型や中型の金銅仏は，黒っぽい茶色か黒っぽい緑色をしていて，一部に金色部が残っている場合が多い．これらの色は，"仏像は火に遭い，焼けただれ表面は黒っぽい酸化第二銅（CuO）で覆われていているが，一部鍍金が残っているため"と説明されてきた，そして，これが美術史の常識となってしまっている．しかし，本誌前号で紹介したように，白鳳金銅仏の1つ，鶴林寺聖観音像の分析結果は上の説明（常識）とは，ことごとく違ってしまっていた．黒っぽい色の原因物質は，CuOではなく，銅サビの一種，塩基性硫酸銅（CuSO_4·3Cu（OH）_2）とスス（土ぼこりと油煙）であり，金色部は鍍金（金を水銀に溶かし，加熱して水銀を蒸発させ，純金を残すメッキ）ではなく，金箔であった。 もう少し詳しく書けば，金箔を微粉末になるまですりつぶした金泥であった．しかし鶴林寺聖観音像分析結果の一例だけから，これまでの常識を否定するわけにはいかない．まずは二例目を分析する必要がある．