強磁性形状記憶合金の結晶組織制御技術

摘要

強磁性形状記憶合金では応力だけでなく磁場でもバリアントを再配列させることが可能であり，結晶磁気異方性に由来して磁場印加方向に平行な磁化容易軸を有するバリアントが優先成長することで磁場誘起ひずみ（磁歪）が発生する．とりわけ単結晶状態では，磁歪材料として知られるTerfenol-Dのそれを遥かに凌ぐパーセントオーダーの巨大な磁歪が発生する．強弾性と強磁性の融合により，単独では生じ得ない新たな機能が発現したわけである．強磁性形状記憶合金は高速かつ非接触で駆動する磁気センサー·アクチュエーター材料として期待されており，これまでNi{sub}2MnGaを初めどするホイスラー合金，Fe-Pd（パラジウム），Fe{sub}3Ptといった鉄基合金等が報告されている．それら多結晶の磁歪は単結晶のそれと比べ1桁ないし2桁低いのが一般的である．筆者らのグループでは強磁性形状記憶合金多結晶の結晶方位分布，結晶粒界，結晶粒径といった結晶組織因子を制御することでその高性能化に成功している．この成功例は，マルチフェロイクス開発における結晶組織制御の重要性を示すものといえる．本稿では，Fe-Pd強磁性形状記憶合金を例に挙げ，結晶組織因子と機能特性との因果関係，その高性能化のための組織制御技術を紹介するとともに，マルチフェロイクスの設計·開発における組織制御の方針について述べる．