現場の熱処理学（12）--過共析鋼の熱処理

摘要

熱間金型用鋼の熱処理の説明に入る前に今までの復習をかねて，鉄鋼の性質に及ぼす各種合金元素の影響について以下にまとめておこう。 Feの変態点および相が添加合金元素により変化する様子の一部は，すでにステンレス鋼において詳述したが，これらを系統的にまとめると図1のようになる。 （a）γ域閉鎖型：この形式の状態図の一例はフェライト系ステンレス鋼のCrの挙動で説明した。 この型はγ域の縮小とともにα域の拡大をもたらすから，γ相の範囲を超えた合金X％では，相変態を利用する焼入硬化は不可能である。 また合金Xのα相における溶解度が温度上昇にともない急激に増加する場合は，Fe－W系のように溶体化熱処理が可能となる。 この系に属する合金元素は，Al，Cr，Si，Ti，P，W，Mo，Vなど多数があり，フェライト安定型元素といわれている。 （b）γ域拡大型：Fe－C系のようによく見る形式の状態図である。当然A_1変態点が存在するので共析組織を有し，理論的には相変態による焼入れが可能である。 C，N，Cu，Zn，Coなどがこれに属する。 （c）γ域開放型：合金元素が相当量固溶するとA_3変態点が常温まで低下し，したがって常温でγ相（オーステナイト）をみることができる。 これに属するものにMn，Niがあり，オーステナイト安定型元素という。 Fe－Mn系のハドフィールド鋼（Hadfield's steel）やオーステナイト系ステンレス鋼が好例である。