自動車部品の複合表面改質による疲労強度向上：複合表面改質の自動車用歯車への応用

摘要

自動車の動力性能向上や燃費改善は永遠の課題である．軽量化はこれらの柱であり，動力伝達系部品の歯車においても，軽量化やサイズダウンのための高強度化が求められている．歯車の破損モードには，図1に示すように，応力集中部の歯元から破損する曲げ疲労破壊と歯面同士の接触により発生する面疲労破壊がある．このうち，ガソリンエンジンに比べ低回転－高トルクで使用されるディーゼルエンジンを搭載している商用車の歯車においては，特に曲げ疲労強度向上が重要な課題である．歯車の曲げ疲労強度をさらに向上させるためには，次に示す疲労強度向上3指針が重要である．①ステージIのき裂発生を阻止するため，表面近傍の降伏応力（硬さ）を大きくする．②ステージIのき裂伝ぱ距離を短くし，降伏応力を大きくするためにも，可能な限り結晶粒径を小さくする．③ステージIIのき裂伝ぱを阻止するため，表面直下に大きな圧縮残留応力を導入する．ところで，歯車の曲げ疲労強度を向上するための表面改質法として，通常ガス浸炭焼入焼戻しと普通ピーニングとを組み合わせた方法が多用されている．しかし，よりいっそうの高強度化をはかるためには，疲労強度向上3指針を達成できる新しい表面改質法の導入が必要である．そこで，3つの表面改質法を組み合わせた歯車を製作し，その表面特性と曲げ疲労強度を調査した。その結果，曲げ疲労限度を大幅に向上させることができた．本稿では，疲労強度向上3指針の歯車への適用性とそれを適用した複合表面改質歯車の表面特性，曲げ疲労強度を検討した結果について述べる．