固体のミクロ構造とゆらぎ（第2回）：「ゆらぎ」のある結晶によるX線の回折

摘要

さて，この解説で取り上げる結晶における「ゆちぎ」はX線の回折にどのような影響を及ぼすのであろうか？「ゆらぎ」は原子配列の小さな変化であり，結晶全体の骨組みは変わらない．図1に2次元結晶について「ゆらぎ」のモデルを示す．（a）では原子の位置が格子点からずれている．しかしずれの方向と大きさに格別の規則性はなく，すべての原子についてずれのベクトル和をとればゼロになる．このような「ゆちぎ」を変位型と名付ける．（b）では2種の原子が格子点を無秩序に占有している．無秩序とは格子点の対にAあるいはB原子を見出す確率がこれらの原子の（分数）組成比に等しい状態をさすが，この確率が組成比からずれている場合，置換型の「ゆらぎ」があるという．しかし，2種の原子の散乱因子の平均値をとり，各格子点の散乱因子のこの値からのずれを加え合わせるとゼロになる．「ゆちぎ」が存在していても回折図形が激変するようなことはなく，多くの場合，回折極大と回折極大の間に，あるいは回折極大の周りに微弱な「散漫散乱」が現われる．また，ある場合には回折極大の強度の変化が現われる．