患者のための緘灸学石川日出鶴丸が描いた理想の医療と緘灸

摘要

本稿では、緘灸医学の危機を救った石川日出鶴丸の足跡を迪り、彼の目指した科学的 基盤に基づいた鉞灸医学についての考察を行います。 石川先生は、富山県の出身で、東京帝国大学を卒業後、京都帝国大学の天谷教授の下で研究生活に入り、1908年から4年間、最先端科学が花開くヨーロッパに留学されます。 主にゲッチンゲン大学のフェルボルン教授の下で研究しますが、短期間ながら、ぺテル スブルグ大学のパブロフ教授や英国のスターリング教授、シェリン卜ン教授なども訪れ ています。このヨーロッパでの経験が、後年の研究発展へとつながるのです。帰国後は、 京都帝国大学の教授として、日本の生理学研究を大きく発展させ、同時に、緘灸医学や 心理生理学にも生理科学的手法による解析を試みられました。石川先生は、神経生理学領域では、加藤元一教授との論争で有名です。この論争は、 神経の活動電流が、麻酔部位で、減衰して伝導するか(減衰論)、減衰せずに伝導するか (不減衰論)というもので、加藤教授が石J11先生の愛弟子の一人であったことにより非常 な注目を集めました。京都帝国大学を退官後、1944年に三重大学医学部の前身である三重県立医学専門学 校長として津市に来られ、翌年には、大学病院に緘灸療法科を開設されます。終戦後、 GHQは、当時の鉞灸などの伝統医学が、西洋医学の水準からすると、科学的根拠に乏 しいことから、「緘灸禁止令」を考えていました。先生は、御自身の研究結果をもとに、 GHQ関係者に铖灸医学の科学性を説明され、実際に鉞灸を施術してその効果も体験さ せ、铖灸の存続に貢献されます。しかし、この間の過労のためか、1949年に教授会の 席で脳卒中を発症し亡くなられます。石川先生の遺志は、弟子の笹川久吾京都大学教授に引き継がれ、日本緘灸学会が結成 されます。第1回日本铖灸学会が1954年に京都大学で開催され、現在の隆盛へと繋が るわけです。