火山周辺域における熱水系の発達と地質構造 / 西南日本背弧側，九州北西部の鮮新世火山活動に伴う熱水変質帯を例に

摘要

1．有田一嬉野地区の熱水変質帯の発達においては，北部九州に特徴的にみられるNW～NNW系の断層群の一部が熱水の上昇通路を規制する極めて大きな要因になった.2．有田一波佐見一嬉野一虚空蔵山一川棚一任世保南の各地区の火山岩は，2．7から1．9Maにかけて大きな時間間隙のない断続的な噴出活動であった.火山岩の全岩主成分組成も考え合わせると，各地区の火山岩は成因的に類似した一連のマグマ活動で形成された可能性が高い．熱水活動は2．2Ma頃の有田泉山付近を境に南方だけでなく北方へも移動しており，有田地区の陶石化作用は小規模ながら波佐見地区とは別の熱源による可能性がある.3．熱水変質岩中のセリサイトの酸素同位体比の分布では波佐見地区が有田地区よりも低い値を示し,波佐見地区の熱水活動がより高温で活発であったことを示唆する.これは石英脈中の流体包有物の均質化温度とも調和的である.4．重力異常分布から，大村湾低重力城は深部断裂を伴うハーフダラーベン状の構造に起因すると推定され，その後の東側縁辺沿いでの熱水ヒ昇により有田-嬉野地区での活発な熱水系が形成された.同様の断裂構造は武雄地区でも推定することができ，これらの深部断裂は鮮新世の化石熱水系だけでなく，現在の熱水系である嬉野温泉や武雄温泉などへも影響をおよぼしている可能性が高い．したがって本地城においては,北部九州にすでに存在していた古い地質時代の深部断裂がその後のマグマー熱水系の形成場になったと考えられる.