PolyI:C誘発性神経発達障害モデル:統合失調症動物モデルとしての有用性と発症機構

摘要

統合失調症は人口の約1%が罹患する重篤な精神疾患であり，陽性症状（幻覚·妄想など)，陰性症状(情動反応の平板化，社会的ひきこもりなど）および認知障害の3つの主症状によって特徴づけられる.統合失調症の病因は未だ不明であるが，遺&学舰究からdisruped-in-schkophrenia1(DISC1)などを含め，多くの発症脆弱性遺伝子が同定されている.また，疫学的調査の結果では，周産期のウィルス感染や出産時の合併症などが統合失調症の発症リスクを高めることが示唆されている.すなわち，統合失調症は単一の遺伝子異常によって生じるのではなく，おそらくは多数の遺伝子と環境因子の相互作用によって発症に至る複雑な多因子疾患であると考えられている.精神疾患研究においてヒトの脳組織から得られる直接的な情報には限界があるため，多くの動物モデルが作製されている.我々は，自然免疫を活性化するtoll-like receptor3リガンドのpolyriboinosinic-polyribocytidilic acid (polyI:C)を新生仔期に投与したマウスが統合失調症発症に関わる環境因子に基づいた動物モデルになりうることを報告している.新生仔期polyI:C投与モデルは，成熟後に認知·情動行動の異常，ならびに海馬におけるグルタミン酸作動性神経系機能の障害を示す.さらに，polyI:Cモデルを発展させた遺伝子-環境相互作用に基づいた統合失調症動物モデルの作製にも成功している.本総説では，我々が開発したこれらの動物モデルを中心に紹介するとともに，その有用性について概説する.