妊産婦死亡登録事例の原因分析からみた予防対策 新しい妊産婦死亡登録制度の概要について

摘要

日本産婦人科医会(医会)では，より安全な産婦人科診療の実現を目的に平成16年より発事例報告事業を行っており，21年までの6年間で合計2,077件の事例を収集している. その中で，妊産婦死亡の報告事例は111例あり，原因として多かったものは羊水塞栓症(疑い）31例，出血17例，肺血栓塞栓症14例，脳出血9例であった(表1).しかしながら，厚労省の母子保健統計による妊産婦死亡の38.596しか収集できていない.さらに，偶発事例調査の報告内容に不十分な点も多く， 問題点を抽出し，再発予防に向けた提言を行う状況にはない.そこで,「どのような原因で個々の事例が発生しているか「その防止策はなかったか」などをより詳細に検討し，各々の事例の中から産科医療の向上に向けた問題点の抽出を行える体制の整備が必要であった.また，妊産婦死亡の発生はわずかであることから，より多くの事例を収集することが重要で，さらに，登録された事例については詳細な臨床経過をもとに，死亡原因の分析を行い，診療上の問題点を整理し，産科医療の向上に向けた提言を行っていくシステムが必要である.そのような背景で，医会では平成22 年1月より偶発事例報告事業から妊産婦死亡報告事業を独立させた.提出された報告は， 厚生労働科学研究費(厚労科研)池田班と共同で原因分析を行い，死亡原因の確定や診療上の問題点の抽出などを行い，この検討を通して抽出された再発防止策や医療安全のための問題点は提言として医会が定期的に発表し，産科医療の安全性向上のために役立てていくことになつた.