医療観察制度の現場から要請される課題-特に精神病理学的探求と自殺予防対策の必要性について-

摘要

抄録：医療観察法医療の実務現場から要請される課題の中で，①対象者の病歴を詳細に検 討すると，これまでの臨床精神医学の場で注目されてこなかった病態に遭遇すること，② 対象者の自殺予防対策が急務であることの2点に焦点を当て，以下のように報告した。1) 統合失調症の3例を提示した。彼らは発病以降典型的な経過をたどっていたが，ある時点 から特異な病態変化を成した。その変化した病態は統合失調症に関する従来の症候学では 適切に取り上げられていなかっただけでなく， 「平凡で安全な病態」から「他害リスクの高 い病態」への変化をも意味しており，精神病理学的にも重要な検討課題である。2)対象行 為に拡大自殺など自殺に関連したものが多いこと（当院入院対象者の男性の約1割，女性 の約5割），また治療プログラムや病棟の物理的構造の中にも希死念慮を誘起しうる要素 があることなどを示し，一方で治療者側の対応が不十分であることを喚起したい。