耐候性鋼の耐食性発現機構の人工合成さび実験によるアプローチ

摘要

鋼材さびの生成においては，電気化学反応によって生じたFe~（2＋）とOH~-からFe（OH）_2が生成し，これが複雑な過程により酸化され，種々のさび成分すなわちα~-，β~－，γ~- FeOOH，Fe_3O_4および非晶質鉄酸化物が生成する。 これらのさび成分は，ナノ～ミクロンサイズの微粒子で，それらが集合してさび層を形成する。したがって，さび粒子の表面構造，形態，凝集状態などがさび層の構造と機能，例えば緻密性とイオン選択透過性などに密接に関係するものと思われる。 上で述べたさび成分である鉄酸化物微粒子は，鉄塩水溶液から合成することができるが，それらの生成反応は複雑で不明な部分も多い。 現在のところ，鉄酸化物微粒子の生成過程は，次のように考えられている。 鉄イオンが加水分解して生成した多核錯体イオンが重合して，数nmの一次粒子が生成する。 それらの粒子が集合して大きな粒子が形成され，熟成により結晶化する。 このような粒子生成過程は，pH，アニオン，温度，濃度など種々の条件に敏感であるため，生成する粒子の組成と構造は生成条件によって異なる。 鋼材の大気腐食においても，乾湿の繰り返しはあるけれども，およそ40％以上の湿度では水の毛管凝縮によってさび層の細孔中には水相が形成され，水溶液と似た粒子生成過程でさび粒子の生成が起こるものと考えられる。 このことは，耐候性鋼さびの組成と構造が暴露環境で異なることからも明らかである。 例えば，環境の良い山間部で暴露したさびは微細で緻密なさび層を形成し，一方，飛来塩分量が多い環境では，大きなさび粒子が生成し粗なさび層ができ，腐食が進行しやすくなっている。