E·グラント（小林剛訳）『中世における科学の基礎づけその宗教的，制度的，知的背景』知泉書館，2007年，xvi＋327＋39頁

摘要

中世科学史研究は，ピエール·デュエム（1861－1916）の記念碑的著作『世界の体系』とともに産声をあげた．その後ヨーロッパにおいて文献学的に深化を遂げる一方，教育と科学哲学に重点を置く北米では独自の歩みを示すことになった．草創期の中世科学史研究を支えた人物は3人いる．『魔術と実験科学の歴史』の著者リン·ソーンダイク（Lynn Thorndike，1882－1965），ベルギーからの移住者ジョルジュ（ジョージ）·サートン（Georges Sarton，1884－1956），そしてアメリカ中世研究の確立者チャールズ·H·ハスキンズ（Charles H．Haskins，1870－1937）である．とりわけサートンは，歴史学でも科学研究でも十分に存在意義を認められていなかった科学史研究を制度化するために，1912年に科学史専門誌『アイシス』を，1924年に科学史学会（History of Science Society）を立ち上げた．しかしながら，アメリカ科学史学会の中で，中世科学史にとって厳密かつ記念碑的な成果を残したのはマーシャル·タラーゲット（Marshall Clagett，1916－2005）であった．カリフォルニア工科大学とジョージ·ワシントン大学で学び，ソーンダイクが教壇に立つコロンビア大学で博士号を取得したクラーゲットは，対日戦争中に海軍に勤務したのち，1947年にウィスコンシン大学に赴任し，1964年以降プリンストン高等研究所に籍を置いた．『古代ギリシア科学』（1955年），『中世の工学』（1959年），『中世におけるアルキメデス』5巻（1964－84年）という記念碑的著作を完成させ，さらに『古代エジプト科学』（1989－）に着手した．