基準温度変換日数を用いた土壌有機態窒素無機化速度と春播コムギによる窒素吸収速度の比較

摘要

畑作において，反応速度論的手法による土壌有機態窒素の無機化量推定は，溶脱を主因としてその推定量が作物の吸収量と隔たるため，広く用いられるに至っていない．本報告でほ，まず，降水量が比較的小さく溶脱強度が弱い北海道十勝地方の春播コムギ生育期間において，反応速度論的手法の適用性を検討した．次に，基準温度変換日数を用いて，土壌有機態窒素の無機化速度と作物による窒素吸収速度を比較した．1990年と1991年に行った無窒素施肥栽培春播コムギの体内窒素と0～30cm層位土壌中の無機態窒素の含量の推移は，反応速度論的手法による推定無機化量の推移とかなりよく一致し，反応速度論的手法は土壌由来窒素の供給量推定法として有効性が高いと考えられた．1991年の無窒素施肥栽培春播コムギの体内窒素量（y）は，土壌の窒素無機化特性値を用いて計算した基準温度変換日数（x）に対して，生育初期には指数関数的に増大し，中後期には層線（y＝ax+b）的に増大していた．土壌有機態窒素の無機化畳も基準温度変換日数に対して商線的に増大するため，無機化漬線の勾配と前述の作物体内窒素増大垣線の勾配（a）から，両者の速度を比較した．無機化速度に対する作物体内窒素増大速度の比率を，無機化窒素の利用率として，その値は腐植を含む土壌層全体で82～98％であった．ただし，1990年の春播コムギの体内窒素量の推移にほ，有意な垣線関係が認められない場合もあり，吸収速度の解析には生育中後期の調査を精密に行う必要性が示唆された．