近年の農業へのケィ酸利用と研究6.水稲の気象災害に対するケィ酸の収量および 玄米品質の低下軽減効果

摘要

近年，IPCC第4次報告書において大気中の温室効果 ガス濃度の増加に伴い，気温の上昇が予測されており地球 温暖化の可能性が指摘されている（IPCC2007).地球温 暖化による気温の上昇は人間の生活のみならず，農作物の 生産環境においても様々な影響を与えると考えられている (巽，2007).すなわち，気温上昇による気候変動が，高温， 低温，日照不足，台風による風害.潮風害，干ばつ，なら びに豪雨などの異常気象を頻発させ，農業生産に大きな影 響を受けると考えられる（巽，2007).農作物の中で，養分として最もケィ酸を多く必要とする 水稲においてもその影響は例外ではなく ，米の生産量に著 しい影響を及ぼす登熟期の異常気象により，収量および玄 米品質（以下，品質）の年次変動が大きくなつている.気 象災害は水稲への非生物的ストレスである.ケィ酸は水 稲への生物的.非生物的ストレスを軽減すると指摘され ており(Matohら，1986 ；早坂ら，2000 ；前川ら，2002 ； Hayasakaetal 2005,2008 ；馬，2006 ；藤井ら，2008 ； 森ら，2009c),光合成の促進，根の酸化力向上，耐病虫性 の強化ならびに耐倒伏性の向上など，水稲の生育、収量形 成に深く開わっている（高橋，1987).しかし，生産者の 高齢化，米価の低迷などによる労働力不足やコスト削減に より，ケィ酸資材の施用が省略され，水田へのケィ酸供給 量が減少し（熊谷ら，1999 ；山下ら，2012),気象災害に 対する水稲の抵抗力を脆弱にしていると考えられる.