根域からの窒素溶脱に及ぼす有機質肥料の併用効果：土壌環境基礎調査で 行われたライシメータ一試験結果のモデル解析

摘要

土壌環境基礎調査の一環として1980年代後半に日本各 地（6地点）で実施されたラインメーター試験では窒素吸 収率や溶脱率に及ぼす有機質肥料併用効果が調査地点に よって様々だった.この効果をより良く理解するために， 筆者らはこのラインメータ一試験の中で山梨県と大分県で それぞれ7年間と5年間に渡って行われた結果を取り上げ て，モデル計算によって統一的に表現することを試みた. 山梨県では灰色低地土，大分県では淡色黒ボク土がライシ メ 一ターに充填された.両県ともに化学S巴料単用区と牛糞 堆肥や下水汚泥との併用区を設けた施肥条件で二毛作がく り返された.試験期間中に水と窒素の収支が経時的に調査 された.これらの実験から得られた結果に対して，有機質 肥料の無機化につL、ては窒素無機化1，その後の水と硝酸 ィォンの移動についてはHydrus- 1Dを段階的に適用し た.実測値や参考値から得られた変数をモデルに適用し， さらに土壌水の浸透量をより良く合わせるために作物生育 と蒸発散に関する変数を調節した.その結果，灰色低地土 区からの硝酸イオンの溶脱の経時変化と積算量をモデルに よつてある程度予測できた.実測値と予測値ともに有機質 肥料，とりわけ牛糞堆肥の併用は溶脱量を軽減させるのに 有効であることが示された.しかし灰色低地土区の結果を 用いて変数を調節したモデルは，黒ポク土からの硝酸ィォ ンの溶脱積算量を過大評価した.黒ポク土による硝酸ィォ ン吸着を想定してモデルを改良した結果，化学肥料単用区 での予測は改善できたが，有機質肥料併用区での予測では 改善できなかった.さらに吸着を考慮したモデルを用いて 感度分析を行った結果，土壌の硝酸イオン吸着能は有機質 肥料の併用による溶脱軽減効果を相殺させうることが示唆 された.