農芸教育の提唱（5) -学校教育の場における育てる指導者不足の背景-

摘要

生きものを育てることのできる教師がいなく なった直接的な原因は，産業に直結した実学教育 が伝統的に行われ，生きものを育てることのでき る教師の養成が行われなくなつたからである。そ の背景には，農を通しての教育がもっている人間 教育的側面よりも産業技術的側面が重視されてき たことがある。すなわち，戦後工業が発展するに つれて，工業教育が重視されるようになり，教員 養成課程では，工業系教員の養成を目指した技術 (教育）科への編成替えが行われた。その結果， これらの学科では栽培系教官が減り，工業系教官が圧倒的多数を占めることとなった。これは育て ることを体験し，それを教育の場に還元する教師の卵の教育がおろそかになったことを意味する。 ところ力、農を通しての教育には，このような産 業技術的側面（獵る行動、思想）とともに，人間 教育的側面（育てる行動、思想)，すなわち，生きものを育てることを通して，人間を育てる側面を もつ。人間として成長し，生き抜いてゆくために は，両者は対等にバランスを保つことが望ましい。 にもかかわらず，農の教育にかかわる教育者がそ のことの重要性を認識し，アピールできなかった ために栽培系教官の激減を招いたといえる。