文学の生まれる場所一宮沢賢治と東北（1）

摘要

はじめに - 文学作品はそれが生まれてくる環境を必然的に反映するものであるならば、名作とはそのような環境、すなわち場所や時代の空気を最も強く反映したものだと言えるかもしれない。 その意味において宮沢賢治（明治29年～昭和8年）とその作品について考えるには、賢治が育ち、その世界観と言葉を発酵させた東北という風土を看過することはできないだろう。 だが多くの名作がそうであるように、宮沢賢治の作品群の多くは東北的風土というローカルティーを内包しつつも、決してその風土性に還元されるものではなく、逆にその地方性を突き抜け、よりインターナショナルな普遍性をも志向している。 時代や風土という土壌から芽を出し、同時により普遍的な高みを目指す宮沢賢治の仕事は、単なる童話や詩というジャンルの囲いを越えて、今も可能性に満ちた作品群として我々の前にある。今回からはそのような宮沢賢治が生まれ育った東北という場所と、そしてそこを主な舞台として措かれた独特な作品群との関係について考えてみたい。