競走馬にしばしば発生する蹄壁空洞病変（蟻涧；Gidoh)の疫学調査結果

摘要

日本独特の定義上、蹄壁中層と葉状層の境界領 域に蹄負面に形成された空洞が蹄負面に達したものを蟻洞と呼ぶ[9]。読hで字のごとく蟻の巣 の比喩である。実際は、空洞は蟻の巣様に細い場 合もあるが、それにとどまらず拡大して蹄壁の広 い範囲に及ぶ例が多い。また、蹄負面の開口部が 白帯（線）に及ぶケースもよくあり、海外では白 線病white line disease (訳注；白線裂を含む白帯 損傷の総称）の範疇に分類する者もいる[1,14, 16]。しかしながら、white lineすなわち白帯（線） は蹄壁と蹄底に介在する黄色透明調の特殊な角質 だけを指すことから、蹄壁と葉状層の境界域まで 拡大する蟮洞とwhite line diseaseは区別するべ きという意見も根強い[2]。総じて、欧米には 蟻洞と同一の定義に当てはまる用語はなく、良く 似7こ病変としてchronic hoof wall separation, traumatic hollow hoof, hoof rot, seedv toe, dew poisoning, wall break back and infectious wall deterioration, sever white line disease[2,13, 20, 21]があり、用語は混乱している。国際的認知 はないものの、我々には日本の定義で蟻洞； Gidohを理解するのが慣用であり、集計もこの定 義によって成された。さて、蟻洞が知覚組織まで 拡大した場合、跛行や二次感染が起こるため問題 となる。また、感染がなくても大きな空洞病変の場合、装蹄に必要な釘打ちが困難になるため調教 上のトラブルに発展することから無視できない[15]。 JRA競走馬総合研究所におけるルーチン な病理解剖では、1)単純型、2)白線裂型（図 1-a) [3,11,12,14]、 3)蹄葉炎型（図1-b) [10,13]に区分される。3)の蹄葉炎型では、ラ メラーゥエッジ[5,10]と呼ばれる再生性蹄皮（負 面では肥厚した白帯にみえる）と蹄壁中層との境界領域が浸食を受けて空洞になっている点に特徴 がある。さらに、蹄葉炎という過去の病歴を情報 として持っていないと、生馬で蹄葉炎型と白線裂 型を区別するのは難しい場合がある。我々の施設 では、単純型蟻洞の経験は極めて少ない。