メロンつる割病菌レース1，2y抵抗性の育種学的研究

摘要

1993　 年に北海道内でメロンつる割病菌:（Fusarium oxysporum f.sp. melonis）レース1，2yの発生が認められた。 この病害に対しては太陽熱土壌消毒等の耕種的防除法では十分な効果が期待できないことから農家や農業指導者からレース1，2yに対し強い抵抗性を有する品種の育成に期待が集まった．そこで，著者らは1995年にレース1，2y抵抗性台木品種の育成を開始した．本論文は，レース1，2y抵抗性台木品種（‘どうだい1号’，‘どうだい2号’）の育成過程において，抵抗性の遺伝変異，抵抗性の遺伝性，抵抗性の選抜効果および抵抗性機作等の新しい知見が得られたので，それらについて報告する．レ岬ス1，2y抵抗性素材の遺伝的変異:　 花、野菜技術センターで保有している Cucumismelo L. var. reticulatus 20品種のレース1，2y抵抗性は比較的大きな変異がみられたが，シロウリ（C.melo L. var. conomon）の‘東京早生’より弱かった．黒竜江省から収集したマクワ（C. melo L. var.makuwa）の中にはレース1，2y抵抗性が‘東京早生’と同等程度に強い品種があったが，タクラマカン砂漠の新彊ウイグル自治区から収集した冬メロン（var. inodorus）の品種のレース1，2y抵抗性は全体的に弱い傾向があった．このように，レース1，2y抵抗性の遺伝変異はメロンの系統分化と関係があると推測された．レース1，2y抵抗性の遺伝解析:　 レース1，2yに対する抵抗性の遺伝様式を調査し，抵抗性台木品種育成の基礎的知見とするため，ネットメロン6品種とシロウリ1品種を親とする7×7の総当たり交雑によるダイアレル分析を行った．抵抗性検定は標準接種法ならびに標準調査法で行い，接種後10～11日目に篠病程度を調査した．ネットメロンの‘シヤランテ’は抵抗性の核外遺伝子を持つと推定されたため，‘シヤランテ’を除く6品種についてサブダイアレル表を作成し，ダイアレル分析を行った．その結果，メロンつる割病菌レース1，2yに対する発病度は，狭義の遺伝率が0．81と高く，正逆交雑に差はなく，遺伝的変異の大部分は相加効果によるものであり，優性効果は小さいことが明らかになった．また，シロウリの‘‘東京早生，は相加的遺伝子の他に劣性の抵抗性遺伝子を持っと推定された．それらの結果から，抵抗性品種の育成には相加的な効果を有する抵抗性遺伝子の集積に加え，シロウリの‘東京早生’が持つ劣性の抵抗性遺伝子を導入することが効果的であると考えられた．レース1，2y抵抗性台木品種の育成:‘中母農1号’ב東京早生’の後代を用い，メロンつる割病菌レース1，2yを接種源とした選抜を行ったところ，Ⅲ章で得られた遺伝解析の結果どおり，初期世代で顕著な選抜効果が見られた．この選抜効果は主として相加効果を有する比較的少ない数の微働遺伝子の同型接合化であると考えられ，両親である‘中母農1号’と‘東京早生’の遺伝的背景が大きく異なっていることと関係が深いと考えられた．さらに，F3からF5系統までの世代では緩やかな選抜効果がみられ，F3世代以降においても相加効果を有する抵抗性微働遺伝子のホモ接合イヒが進hだと考えられた．本実験でのF2での選抜効率から見て，今後レース1，2y抵抗性育種にあたって，分離初期世代での選抜が有効であることが示された．レース1，2y抵抗性の機作:　 ‘どうだい1号’の育成に用いた親品種とそれらのFlおよびF2種子，F_3からF_6世代の選抜余剰種子を用い，根端部分でのレース1，2y抵抗性機作の変化を蛍光顕微鏡で観察した．その結果，根端部分でのレース1，2y菌糸の感染率と根端部分に侵入した菌糸長がF2からF_3世代の間で顕著に低下することを明らかにした．これは，相加効果を有する抵抗性微働遺伝子の同型接合化によって，根端部分におけるレース1，2y菌糸の感染率が低下し，根端部分に侵入した菌糸の伸長が抑制されたためと考えられ，レース1，2yに抵抗性を有する微働遺伝子の集積と同型接合化によって，根端部分における菌糸の感染に対する抵抗性および組織内に感染した菌糸の伸長に対する抵抗性が増大した結果であると推定された．‘どうだい1号’育成過程における各系統についてみられた発病度と根端部分での感染率および根端部分に侵入した菌糸長の相関関係はメロンにおける広い遺伝的変異の中においても認められたため，この現象はメロンにおける一般的な現象であると考えられた.レース1，2y抵抗性台木品種の特性:‘どうだい1号，はレース1，2y発生圃場での篠病は見られなかったが，レース1，2y未発生圃場での試験結果から，穂木に草勢が中庸な品種を用いた場合は収量性に問題はないが，穂木に草勢が強い品種を用いた場合には収量の低下が懸念されることから，‘どうだい1号，は草勢が中庸な品種の台木としての利用に適すると考えられた、また，‘どうだい1号，はレース0，レース1に真性抵抗性を有していた.‘どうだい2号，は‘バーネット，を種子親に‘－どう－だい1号，－を花粉親にして育成されたFl品種で，レース1，2yにやや強い量的抵抗性を有する他，レース0，レース1およびレース2に真性抵抗性を有し，種子が大きく，台木品種として十分な接ぎ木作業性を有し，草勢が強い穂木品種に対しても台木品種として十分な果実生産力を有するため，実用性のあるメロンつる割病抵抗性台木である．しかし，レース1，2y発生圃場での罷病が報告されていることから，‘どうだい2号’の利用にあたってはトマトとの輪作等によってレース1，2yの菌密度を高めないような作付け体系を組むことが必要であると考えられた.