カンキツの組織培養苗の環境保全への適用（第1報）スンタラ（Citrus reticulata BLANCO）の試験管内大量迅速育苗と生産コストシミュレーションによる生産方式の改善方向の推定

摘要

近年，開発途上国における人口の増加に伴い，農村部周辺の森林伐採，開墾が進み，土地の水分保持力の低下に伴い雨水は地表を流れ去る量が増し，水源の枯渇，土壌侵食，表土流亡による地力低下などの環境の悪化および生産基盤の劣化が報告されている．環境保全，緑化を目的とした植林および造林，或は伐採禁止による森林保護は重要と言えよう．同時に，地域振興を希望する住民の意向を考慮する必要があろう．その際，山間地の傾斜地に，通年樹冠の葉が繁茂し，根圏が維持され，傾斜地法面の土壌侵食防止と農業生産に有用なカンキツの植林が一つの選択肢と考えられるも．開発途上国の植林に組織培養苗は有用と考えられる．著者の滞在した，山勝ちのネパールでも，簡易で小型の植物工場的育苗施設が見られた．カンキツ類の脱分化状態を経た植物体再生に関する報告は散見される．しかし，変異の少ないと考えられる脱分化状態を経ない試験管内大量迅速育苗に関する報告は極めて限られている．また，カンキツ類の組織培養苗に限らず，試験管宙の生産コストに関する報告は限られている．そこで今回，小規模で簡易な育苗工場ないし施設を想定して，途上国のカンキツ類の試験管内大量迅速育苗の条件を検討し，苗の生産コストおよび労働時間を試算し，さらに生産コストシミュレーションによる，生産方式、技術の改変方向の予測を試み，次いで予測された生産方式の改変方向について実験的に検証することを計画した．