東日本における港頭地域のアザミウマIII．日本初記録のTenothrips属（Thysanoptera：Thripidae）

摘要

筆者らは，植物が輸入される海港および空港の港頭地域のアザミウマ相の調査を，横浜植物防疫所が毎年春季および秋季に行う港頭地域病害虫相調査の一環として行っており，東日本における調査結果は既に関東地方および北海道について報告した（MASUMOTO et al.，1997，1998）。 この一連の調査において，Ceratothrips属の1種（アザミウマ科）が，関東地方の横浜港，東京港および成田空港の港頭地域のブタナ（Hypochoeris radicata:Comositae）から採集されており，日本初記録として報告された（MASUMOTO et al.，1997）。 本種はMOUND＆WALKER（1982）によると，形態的特徴がCeratothrips frici （UZEL，1985）に酷似した。 しかし，Bhatti（1990）により，C．frici を含めCeratothrips属の多くはTenothrips属へ移されている。 その後の調査で，本種は関東地方の鹿島港，新潟県内の新潟港およびのその他の地域から採集されていることが明らかになったことから，種名を明らかにするために，Senckenberg博物館（フランクフルト）からヨーロッパ産Tenothrips frici （UZEL）の標本を比較標本として借用すると共に，同博物館のRichard ZURSTRASSEN博士へ標本を送付した。その結果，関東地方および新潟県の各地で採集された不明種は，Tenothrips friciであることが明らかになった。 本属はこれまで日本から記録がなかったことから，本属の簡単な標徴および近縁属との識別点を示す。