植物漆ルモンの分子機構はどこまで明らかになったか

摘要

植物ホルモンは，微量で植物体の発生、成長、分化を顕著に制御するので，発見以来，注目すべき存在として研究されてきた。 最初の植物ホルモンとしてオーキシンが発見されてから70年あまり経過したが，今日ではその数は少なくとも6種類を数えている。 その節目節目に多くのモノグラフも登場しているので，その概要について一通りの知見を得ている人は少なくないであろうと思う。 しかしながら，時間軸をさかのぼらせて20年前に登場した同様の特集の内容と本誌で今回特集号として扱う内容について顕著な隔たりがあることに気づかざるをえない。比較的低分子の生理活性を持った化合物として定義された植物ホルモンは，主として生物有機化学の対象であり，生合成がどのようになされているか，また，それらに関する現象論と有用性について書かれてきた。作用機構についても記述されているが，それはほhの申し訳程度であり，大部分は想像の産物であったといっても言い過ぎではないであろう。 ところが，今回の植物ホルモンでは，程度の差こそあれ，いずれも信号伝達について明確な像を示している。 このことが今回特集号の企画された第一の要因であるが，その理由としては，この10年来の分子遺伝学的手法の進展と，シロイヌナズナやイネのゲノムの全塩基配列が発表になったことが大きい。 一方では，このため従来の現象論の話と今回の信号伝達機構の説明との間に相当なギャップがあることも事実であり，そのギャップの存在を編集にあたったものとしては若干でも埋める必要があると考えている。 そこで，冒頭に各テーマについて注目すべき点と従来とどこが大きく異なるかを補言して，緒言としたい。