ウツボカスラの捕虫葉はなぜ多様なのか？－種内分化の要因を探る－

摘要

ウツボカズラ属は葉の先端に壷状の捕虫葉を形成し捕虫することで，蛇紋岩などの貧栄養な特殊土壌に生育域を拡大している．特殊土壌に生育するウツボカズラの種分化機構を解明する目的で，ニューカレドニアに生育するNepenthes vieillardiiの形態的分化および遺伝的分化を解析した．N. vieillardiは非常に多様な形態をもち，蛇紋岩土壌に島状に集団が点在しているため，種内分化が起きていることが想定された．形態的には花序，捕虫葉ともに集団内では形態が安定する傾向がある一方で，集団間では顕著に差が検出された．また遺伝的には複数の集団に共通のハブロタイプ（細胞内小器官のDNAタイプ）がある一方で，一つの集団に固有のハブロタイプも存在することが明らかになった．形態的分化とハブロタイプの間には対応がなく，土壌環境とも関連はなかった．ウツボカズラは一度特殊土壌に適応したのちは，地域集団への隔離や遺伝子流動の制限，遺伝的浮動など，集団遺伝学で説明できる分化を起こしている可能性が示唆された．