日本畜産学会第98回大会シンポジウム：アニマルサイェンス研究の最先端総論：摂食調節機構（1）--食行動における脳の働き

摘要

食事の際，われわれは視覚，嗅覚および咀嚼中に知覚する味覚の微妙な相違により．摂取した食物が好ましい昧であると判断すれば食が進み，腐敗など好ましくない場合は摂取を中断する。 また，個々の食物の特有な形，匂い，味，そして含まれる栄養素の組成をすでに情報として記憶しており，毎日の食事でこの記憶は強化される。 このように過去に得た食体験から個々の食べ物の最も好ましい味を記憶しており，実際に食べて大脳皮質味覚野で認知した味の情報との相異を判断し，期待に応えた味であればより食が進み，逆の場合は食欲が減退し他の食べ物に興味が移ることになる。 「食べる」という行為は，空腹感を満足させる歓びであり，われわれのような雑食性動物が生命を維持し健康な生活を営むうえで，食物の適切な質的量的調節は個々の栄養素の消費と摂取のバランス（栄養バランス）をとりつつ生体恒常性（ホメオスタシス；homeostasis）を維持することにつながる。