進化生態学における「匂いと味」：ァズキゾゥムシの産卵行動から

摘要

われわれヒトを含めた生物にとつて，環境中の化学物質を匂いや味として検知する能力が，生存や繁殖にとつて必須のものであることは論をまたない。ただ，実際に検知しているのは，身の回りに無数に存在する化学物質の中のごく一部である。限られた情報処理能力をどの化学物質に対して発揮するか，また得られた情報を自らのふるまいにどのように反映させるかは，生物ごとに大きく異なっている。この多様性の中に，何かしらの共通性·普遍性を見出すことはできるであろうか.進化生態学研究者である筆者らは，化学物質が持つ主要な機能のひとつである「個体間コミュニケーション」のありょうに，生物種を超えた適応進化の産物としての共通性を見出すべく，主に昆虫を対象とした研究を行っている。本稿では，筆者らが最近発見した，貯穀害虫ァズキゾゥムシの産卵行動における他個体分泌物への新規な反応について紹介する。