特集：燃料電池実用化のカキを握る材料開発－II.材料事例·電解質膜炭化水素系高耐熱電解質材料

摘要

100°C以上の高温域で燃料電池が作動できれば，システム全体の小型化が実現する．そのための高耐熱電解質膜として，炭化水素鎖からなる高分子を利用した炭化水素系電解質材料の実例を紹介する．高分子電解質形燃料電池（PEFC）の実用化には，大きく分けて低コスト化と高性能化の二つの問題が存在する．低コスト化では，セル構成部材の低コスト化，少量化，さらには部材製造とセル形成工程の歩留まりの低下が望まれている．一方，高性能化の課題は多岐にわたり，部材の高耐久性，高耐熱性，燃料の高選択性，セル形態の多様化など多くの課題が残されている．これらは一見，相反する要求特性のようだが，実際には低コスト化と高性能化の課題間をバランスよく解決していかないとPEFCの実用化には結びつかない．したがって，本解説のテーマである高耐熱電解質材料も単に耐熱性が優れた電解質膜であればよいということにはならず，低コスト化，電気化学的安定性，機械的特性，燃料電池システムとしての多様性を考慮したものでなくてはならない．当然，すべての項目を解決した理想的な材料は，多方面がらの研究的なアプローチが行われ，それらが意図的に結びついた時に初めて生み出されるものである．そういう尺度からみれば，本稿は多面的なアプローチの数例を羅列するまでで，今後の系統的な材料開発の基礎データとなることを望むものである．