高Crフェライト系耐熱鋼溶接継手部のクリープに伴う水素放出特性の変化

摘要

高温強度や耐食性に優れた高Crフェライト系耐熱鋼が火力発電プラント等の高温機器に広く利用されているが，本鋼種の溶接継手部での不具合が世界的な問題となっている．これは言容接時の入熱により形成される溶接熱影響部（HAZ：Heat Affected Zone）においてボイドなどの損傷が早期に発生し破壊に至る現象であり，Type IV損傷として知られている．プラントにおける本鋼種使用部位の健全性の確保と破壊の未然防止には溶接部を主体とした余寿命診断技術の開発が不可欠である． 水素昇温脱離分析法は，水素チャージした試料を昇温速度一定のもとで加熱し，計測される水素放出曲線から水素の存在状態を評価する技術である．水素がトラップされる欠陥と水素の結合エネルギーは欠陥の種類によって異なるため，材料内部の損傷状態に応じて水素放出特性が変化する．著者らは，Gr.91鋼のクリープに伴う水素放出特性の変化を調査し，水素チャージ後の水素放出量がクリープ損傷の進行に伴い増加することを明らかにした．このような水素放出特性の変化はクリープによる欠陥（空孔クラスターやボイドなど）の生成·成長挙動を反映していた．また，前報では，Gr.122鋼溶接継手のクリープ損傷材より採取した試料の水素放出特性を調査し，HAZを含hだ溶接継手部の水素放出特性の変化が母材や溶接金属に比べより顕著であることを報告した．得られた結果は，Type IV損傷がHAZにて発生·蓄積するという従来の知見と合致していた．