マルテンサイト変態を利用したオーステナイト系ステンレス鋼の非破壊評価: 1.ステンレス鋼の変形誘起マルテンサイト変態

摘要

本稿では，著者らが開発してきたマルテンサイト変態を利用したオーステナイト系ステンレス鋼の非破壊評価法に関する講座の第一回目として，まず，その基礎となるオーステナイト系ステンレス鋼の変形誘起マルテンサイト変態を材料強度の観点から展望した．最近のエネルギー多様化の社会的要請から，耐水素脆化性に富む低温材料が必要とされるが，その評価尺度に用いられるM_(d30)点やニッケル当量Ni_(eq)等についても概説した．次に，マルテンサイト変態量の測定法について概説した．特に，供用中検査で簡便にマルテンサイト変態量を定量評価できるフェライトスコープ法は，実用上有用である．最後に，以上で得られた知識や方法を活用して，γ相安定性の異なる代表的なオーステナイト系ステンレス鋼SUS304および316Lの塑性誘起マルテンサイト変態に及ぼす環境温度および変形の影響について論じた．