超音波による港湾鋼構造物の非接触検査技術

摘要

現在は、検査の一手法として、超音波厚み計による肉厚測定が広く実施されている。現有肉厚から構造物の健全度を診断する手法である。超音波を送受波する探触子を被測定物表面に密着させ、超音波が表面から裏面まで伝搬する時間を測定する。これに鋼材中を伝搬する超音波の速度を乗ずることで肉厚を得る。理想的な測定環境であれば、極めて高精度な測定値が得られるが、港湾領域は、被測定物の表面に貝等の海生生物が付着していることが多く、理想的な測定環境とはいえない。測定に際しては、ケレン棒等を用いて付着物を除去した後、研磨しなければならない。この作業は全工程の半分以上を占めており、作業効率悪化の主たる原因となっている。全ての構造物を検査することは、時間的にもコスト的にも困難であり、現状では、代表点におけるサンプル測定で現有肉厚の評価を行っている。また、鋼材や防食工を傷つけて、かえって腐食を進行させる恐れもあるため、防食という観点からはケレン作業はしないことが望ましい。取り除かれた付着物は産業廃棄物として処理しなければならないため、そのコスト負担なども問題である。筆者らは、港湾鋼構造物の点検·診断を効率的に行える検査技術に関する研究·開発を国土交通省からの委託事業として遂行している。ケレン作業を必要としない効率的な検査手法として、非接触肉厚測定技術について検討を行っている。ここでは、水槽及び実海域において実施した性能·運用試験の結果について紹介する。