拡張アンサンブル分子動力学法を用いた単純液体の固液相転移温度の推定

摘要

相転移とは系がある温度や圧力を境に全く異なる性質を持った状態に変化する現象である．多くの相転移現象では分子自身に変化は見られないにもかかわらず，分子の集合の様子が変化することでマクロに特異性が現れるため，古典力学的に解明できる余地がある．そして，このような集団系の性質を扱う研究では，系のサイズを分子の構造相関がなくなるまで大きくする必要がある.従来の分子動力学法で大きなサイズの系での相転移現象を扱った場合，相転移が起こるべき温度や圧力の条件を指定しても，エネルギー準安定状態に系がトラップされて相転移が起こらず，相転移近傍における正しい物理量を見積もることが難しかった．拡張アンサンブル法はそのような準安定状態の問題を解決するために開発された手法であり，エネルギー空間のランダムウォークを実現し準安定状態にトラップされることを防ぐことができる．また，広い温度領域で温度の関数として物理量の平均値を見積もることが可能であり，エントロピーや自由エネルギーなどの実験では得ることが難しい量に関しても計算することが可能である.