大学における原子力学教育の再構築：V.東京大学の原子力専攻（専門職大学院）と原子力国際専攻

摘要

原子力学は，この20年来，諸般の状況が重なり，次第に若い人に魅力の乏しい分野になりつつある。 しかし，原子力は将来とも1次エネルギーとして最重要であると予想され，産業界·学会を含めて活力ある原子力の発展·維持のために意欲的で優れた人材が求められる。 このような状況を受けて，新しい時代の原子力学研究と教育のあり方を検討する必要がある。 そこで，大学における原子力学教育の再構築を目指し，21世紀の原子力教育のあり方，原子力学と地域共生，大学の教育と産官学連携，産業界からの要請，日本原子力研究所における原子力教育研究，米国における原子力教育の状況，新専攻設立による新しい原子力教育，など多方面の視点からこれからの原子力学教育を展望し，原子力学再構築の方向性を示す。 東京大学（東大）では，2005年4月から原子力研究総合センターと工学系研究科附属原子力工学研究施設を改組して，工学系研究科の中に専門職大学院である「原子力専攻」（専門職学位課程）と普通の大学院である「原子力国際専攻」（修士課程·博士課程）を設置する。 原子力工学科の流れを継ぐシステム量子工学専攻は，原子力工学の発展の中で生まれてきた新しい学問領域，シミュレーション科学や技術と人間·社会の関係を調べるセキュリティ科学などを開拓する。 これにより原子力の本流部分を担当する組織と発展部分を担当する組織を明確に分ける。 2つの専攻の設置は東大の原子力グループの膨張ではなく，リストラクチャリングである。 今後，「原子力専攻」と「原子力国際専攻」は原子力の将来を担う技術者·研究者を養成し，システム量子工学専攻は広い領域で活躍する研究者を育てる。