サンゴ骨格の酸素·炭素同位体比にみられる代謝の影響と速度論的効果

摘要

熱帯から亜熱帯にかけて広く分布するサンゴ骨格の年輪を用いて，過去の長期間にわたる気候変動を復元しようとする試みが注目を集めている。 「サンゴ骨格気候学」と呼ばれるこの手法は，炭酸カルシウムからなる骨格の酸素同位体比が，形成時の水温と水の酸素同位体比に依存するという性質に注目し，サンゴ骨格の酸素同位体比を高精度の古水温計あるいは古塩分計として利用しようとするものである（鈴木ほか，1999）。 ところが，近年，同位体地球化学の常識を大きく書き換える発見が報告された。これは有孔虫の炭酸塩殻の酸素同位体比が，海水のpHの影響を大きく受けているというものである（Spero et al.,1997）。 この発見は，従来，水温や塩分に規定されていると考えられてきた炭酸塩殻の安定同位体比の解釈に再考を迫るものである（川幡，2002）。 同じ炭酸カルシウムからなるサンゴ骨格の場合にも同様の効果が予想され，特にサンゴ礁の場合は活発な光合成の影響によって海水のpHの変動幅が大きいため（Suzuki et al．，1995），その影響が注目される。