［招待講演］暑熱環境下の太陽光ばく露による体内温度上昇のマルチフィジクス解析～工学的見地からの熱中症

摘要

近年，地球温暖化と相まって，暑熱環境下において子供あるいは高齢者の熱中症が多数報告されるようになった．成人に比べて子供および高齢者が熱中症になりやすい一因として，若年者との形態的，機能的な違いが挙げられる．まず，子供に関しては，体重が少なく身長も低いという単なる大きさの相違のみではなく，成人に比べて体重に対する体表面積の割合が大きいという形態的な特徴を持っている．一方，高齢者は暑熱負荷に対して，発汗量や皮膚血流量の低下により，深部体温の維持能力が若年者と比較すると劣ることが報告されているものの，高齢者の発汗能力の低下は全身一様ではなく，かつ発汗能力低下に関する定量評価は十分ではない．本稿では，電磁界と熱に対するマルチフイジク云解析を用いて，これらの形態的，機能的な相違の体温変化に与える影響を工学的見地から考察することを目的とし，暑熱環境下において太陽光を曝露した場合の体内温度上昇を解析した．その結果，太陽光を照射された場合の体内深部温度上昇は，成人に比べて子供の方が大きいことを示す．特に，相違の支配的要因として体重に対する体表面積の割合が密接に関係していることを確認した．さらに，同様の解析を高齢者に対しても実施し，高齢者の発汗が低下する要因として，皮膚における温度上昇感知の閾値がおおよそ1.5℃高くなることを示すとともに，その体温変化に与える影響について定量評価した．