水面における移入生物と在来水生昆虫相への影響について

摘要

日本は元来水環境が多様で豊富であり，戦前までは，非常に多くの水生昆虫が身近に見られた恵まれた国であった。 しかし，とくに戦後になって様々な環境破壊行為により劇的にその状況を悪化させ，多くの動植物を地域的絶滅や種としても絶滅が危惧される危機的状況に追いやったのは周知のとおりである。 水環境破壊の要因は，1）大規模開発などによる生息地の埋めたて，2）農薬の大量散布や各種排水の流入による水質悪化，3）圃場整備や排水路の整備事業による3面コンクリート護岸などの，湿地環境の乾燥化や水路の直線化と植生の消失，などに大きく分質されよう。 そして，この過程で多くの水生昆虫が激減し，とくにもともと生息環境選択が厳しかった種が絶滅寸前に追いやられる結果を招いた。 一例として，都市化が顕著でなおかつ分布の動態がよく記録されている神奈川県のトンボ類では，県下で記録されている83種のうち約1／3近い種が絶滅か絶滅が危恨される状況にあり，タガメやゲンゴロウのようにかつては県下全域に分布していた種類も，現在はわずかな標本を残して絶滅しており，コオイムシ，マルガタゲンゴロウなどは，県内の既知産地が数カ所しか残っていない。