有機強磁性高分子の物質設計

摘要

今ではもう20年近く前となった鋼酸化物における高温超伝導の発見をひとつの契機として，多彩な強相関多体効果の発見が様々な系を舞台にして目覚しい勢いでなされている．理論的な側面からも多くの新概念の創出がなされ，いまや電子相関の物理が固体物理の中で欠かせぬ大きなチャプターとなったことは改めていうまでもないが，方法論の開発という点でもこの分野における発展は目を見張るものがある．現在では，計算磯能力の飛躍的向上にも支えられ，非常に高精度の計算が可能になってきた．こうなってくると，特定の実験事実の精密な再現から一歩進んで，狙った物性をもつ物質を実験に先駆けて設計することが，画餅ではなく現実のものになりつつあるといっても良いであろう．電子相関効果は一般に極めて微妙な要素によって支配されるので，その「設計」は一朝一夕に達成されるような容易なものではないであろうが，今後物性物理学における最も魅力的な課題の一つとなっていくのは間違いないと思われる，新しい物質と新しい物理概念は串の両輪ともいえるが，この両輪をフィードバックさせる過程から設計に進むところに新たな醍醐味があるとも言える．本誌においても，このような観点から「相関電子系の物質設計」特集号が以前に刊行されている．このほか，計算撥を用いた物質設計に関しては「計算機ナノマテリアルデザイン」が昨年に特集されている．