辰砂釉の素顔-釉薬研究手法の進展

摘要

筆者らは約10年間，辰砂（しんしゃ）釉についていろいろな方法で観察や測定を行ってきた．その間に釉薬を研究する手法はめざましい進展をとげ，今ではナノレベルの画像や原子の電子状態を明らかにすることが可能となっている．辰砂釉は陶磁器を深紅に着色する釉薬としてよく知られており，例えば故宮博物院所蔵の「乾隆窯紅釉措金僧帽壷」や大英博物館所蔵の「紅釉雲龍文皿」，また河井寛次郎による「辰砂壷」など古今の名品も数多い．辰砂和が陶芸を志す人々を引きつける理由は,美術的な魅力に加えて，安定して発色させることが難しく，原料の選択と配合，また焼成プロセス（特に還元焼成の濃度や時期）に独特の工夫や「秘伝」など，製造技術面での要素を残していることにもあると思われる．