カーボン短繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の引張クリープ強度とその温度依存性

摘要

炭素繊維強化複合材料（CFRP）の変形と強度は高分子マトリックスの変形と強度に強く支配される．高分子材料の力学的特性はその固有の微視機構によって本質的に変形や負荷の速度に依存する．この傾向は，高分子材料の種類（熱硬化性樹脂，熱可塑性樹脂）に拘わらず，高温になるほど一層顕著に現れる．このため，CFRP全体の力学的な特性も時間依存性と温度依存性を示すことになる．CFRPを用いたより広範囲の機器·構造物の性能を評価するためには，CFRPの変形と強度の時間依存性と温度依存性を実験によって定量的に明らかにし，これらを精度よく予測する方法を整備することが必要になる．この課題の重要性は熱硬化性樹脂を用いたCFRPの応用においても認識されてきたことであるが，その重要性は熱可塑性樹脂を用いたCFRPにおいて一層大きなものとなる．なぜなら，高分子鎖の架橋を伴わない熱可塑性樹脂においては高分子鎖の相対運動が熱硬化性樹脂におけるよりも容易となり，室温においてもクリープ変形が顕著に生じるためである．以上のことから，熱可塑性樹脂複合材料の応用においては，クリープ変形挙動とその結果として生じるクリープ破壊挙動に特に注意する必要がある．