失行·失認研究の現況

摘要

失行·失認研究のあゆみ,現状,今後の展望について述べた.失行·失認は19世紀末にはじめて記載され,臨床症状の詳細が示され,脳病理所見と対比された.これらは運動と認知の脳内機構を示唆するもので重要な発見であった.その後.20世紀後半から開発されたサルの脳内ニュ-ロン活動の記録などの神経生理学的研究が運動·認知の脳内機構に大きな役割を果たし,最近,とくに注目されているのは10年ほど前からはじまった健常人を対象とする各種機能画像研究である.しかし,この間も失行·失認の臨床神経心理学的研究は着々と積み重なっていた.本稿では脳部位別に最近の失行·失認研究の成果を示した.ここでは地味ではあるが.丹念な神経学的検討と病巣局在との対比という古くからの手法によって従来記載されていなかった新しい症候が現在でもつぎつぎに明らかにされていることを示した.最後に.今後の展望について述べた.今後の失行·失認研究においては,臨床神経心理学,脳機能画像,神経生理学など各種の方法を目的に応じて組み合わせ,動物実験の結果を参考に包括的な研究を進める新しい方法論の確立が望まれると思う.