胸脇苦満

摘要

「腹」という字は、多くの意味を含んでいる。人間では、胸から腰の間で中央にへそがある前面の部分を指すこともあれば、横隔膜と骨盤の間で、胃腸のある部分を全体的に指すこともある。また、腹を使った慣用句も多い。例えば、「腹をこわす」とか「腹が減る」などで用いる腹には胃腸の意味がある。子宮や胎内の意味では、「お腹の子」、「腹を痛める」などとも言う。さらに、「腹が立つ」、「腹を割って話す」、「腹黒い」、「自分一人の腹に収める」などでは、腹は物質しての実体を持たない感情や本心、考えていることといった意味を持つ。そしてもう一つ面白いのが、その人の度量を表したりする「太っ腹」「剛腹な男」などに使われる。このように日本での腹は人間の本質を示す重要なものとして位置づけられてきたと推察される。東洋医学においても、腹を診る「腹診」は重要な診断方法の一つなのである。今回は主訴が「左季肋部が張る」、すなわち胸脇苦満を訴える症例に対し、緘灸治療を行ったので紹介する。