メチルエフェドリンを含まない市販液状鎮咳剤乱用による精神障害

摘要

1980年代に流行した市販液状鎮咳剤プロン液(プロン液W)の乱用による精神障害のうち,幻覚妄想状態の責任薬剤はメチルエフェドリンと推定され,1989年以来この成分を除去した製品が販売されている。しかしメチルエフェドリンが除去されたにもかかわらず,新しいプロン液(プロン液エース)の乱用により幻覚妄想状態を呈する症例が報告されている。プロン液エースの乱用後,幻覚妄想状態を呈して大型観光バスを乗っ取り暴走させた男性の精神鑑定例を提示し,プロン液の依存性および乱用による精神障害の責任薬剤に関する従来の議論を再検討した。 先行研究を見直した結果,新旧のプロン液の依存性についてはジヒドロコデイン,精神障害についてはカフェインが主要な役割を果たしている可能性が考えられた。 しかし配合成分間に複雑な相互作用があり,プロン液の精神薬理作用は各成分の作用の単純な総和ではなく,それ自体独自なものと理解するべきである。