ヘアリーベッチを用いた四国地域の耕地雑草制御－1993年～1997年場内試験並びに現地国場調査からの考察－

摘要

ツル性のマメ科植物ベッチが，四国地域の遊休農地，耕作放棄地等の雑草管理あるいは果樹園の草生栽培用下草として実用可能かどうかを調べるために，1993年から1997年にかけて，四国農武内の圃場並びに香川県，愛媛県，高知県の現地圃場を用いて，ベッチの栽培試験を行い，以下の結果を得た．1）ベッチは冬季の雑草抑制力は弱く，イネ科雑草やホトケノザ，ナズナ等に優占されたが，春から夏にかけての雑草抑止力には優れていた．2）5月におけるバイオマス量昼ライムギ，エンバク等のイネ科作物ヤシロクローバー，クリムソンクローバ等マメ科飼料作物と同等或いはそれ以上であった．3）5年間の栽培では連作障害は見られず，播種前後の耕耘を行うと，ベッチの乾物生産量は800kg／10aにも達した．4）イネ科牧草との混播によりベッチ乾物収量は増加した．一方，イネ科牧草の方は，単播時よりも減収となった．5）水田として利用されていた湿潤で粘質な土壌でもベッチの生育は良好で，レンゲやクローバーは，バイオマス量，雑草抑制力のいずれにおいてもベッチより劣った．6）肥料が大量投入されているような管理圃場と異なり，休耕地等低肥沃地では，ベッチの開花，結実率が高い傾向にあり，自然落下種子によるベッチの自生が見られた．7）傾斜面に栽培されたべッチは，斜面下部の植生にも影響を及ぼした．斜面下部では雑草量の減少が認められ，中でもノゲシやヨモギ等キク科雑草の減退が若しかった．8）現地のカキ園，ナシ園，ミカン園，ブドウ園，ユズ園では，立地条件，土壌条件，気象条件等が各々異なるにも関わらず，いずれの圃場においてもベッチの生育は良く，雑草抑制効果は高かった．また，づツチを利用する上での留意点に関しては，以下のような試験結果が得られた．9）水田にすき込んだベッチの緑肥効果は，米国のトウモロコシやソルガム栽培畑圃場での報告から期待されるほどには大きくなかった．10）傾斜面の畑地や樹園地に播種する場合，事前の除草作業は，その後のべッチの定着、出芽率に大きく影響した．11）ナタネやイタリアンライグラスが栽培されていた圃場では，ベッチの生育は悪く，雑草侵入量も多かった．12）1997年の4月から5月にかけて，四国農試内圃場に大量のツタアブラムシの発生が観察された．現地圃場の善通寺市内耕作放棄田においてもアブラムシの発生が認められ，ベッチの枯れ上がり現象が生じた．13）1997年の5月には，四国農試内圃場で栽培されたべッチの葉から，ソラマメの茎葉に害をもたらすウイルスが検出された．14）農園を管理する農家からは，ベッチ草葉の樹体への絡みつき，果樹園の管理作業能率を低下させる草量の多さ，土壌被覆による過湿がもたらすナメクジの発生，水分や養分の競合による出芽，開花，結実への影響等が指摘され，樹園地にあっては，雑草管理面だけでなく，果樹の生育や品質，病虫害に対する影響等も充分に考慮に入れた上で，ベッチの利用を図る必要性のあることが明らかになった．