軸受鋼の超長寿命疲労破壊に及ぼす介在物にトラップされた水素の影響

摘要

SUJ2の超長寿命疲労破壊に及ぼす介在物にトラップされた水素の影響を調べるために．熱処理によって水素量を変えた2種類の試験片を用いて引張圧縮疲労試験を行った。 2種類の試験片はQT材（水素含有量0.80pp m）と，水素の含有量を減らしたVQ材（水素含有量0.07ppm）である，これらの疲労破面のODAに着目して観察し，水素含有量との関係を考察した、SCM435の結果と比較して得られた結果は次のようにまとめられる。 （1）SUJ2についても超長考命疲労破壊した試験片の破断起点となった介在物周辺には，ODAが存在する．ODA寸法増寿命が長いほど介在物寸法に対して大きい。 その関係はSCM435のQT材と同じ傾向を示す。 （2）SUJ2のVQ材の介在物寸法に対するODA寸法はQT材より小さいが，その差はSCM435（水素含有量QT材0.7～0.9ppm，VQ材0.01ppm）の場合ほど顕著ではない．（3）SUJ2の水素含有量の少ない（0.07ppmの）VQ材でも介在物周辺に水素がトラップされていたことより水素は熱処理の際，まず大きな結合力を持つ介在物周辺にトラップされると考えられる．そして，介在物周辺の水素濃度が飽和してトラップされなかった水素がをの後に組織中の転位や粒界にトラップされる．（4）実際の機械部品でODAの形成を抑え疲労寿命を延ばすためには，介在物周辺にトラップされる水素量を減らす必要がある．そのためには，SUJ2の水素含有量0.07ppmは十分ではない。 （5）超長寿命疲労破壊機構を考察するには，直径の小さい試験片の回転曲げ試験は適当ではなく，寸法の大きい試験片を引張圧縮試験するのが望ましい。