5．箕酸素水塊の慢性化と生態系

摘要

瀬戸内海のような内湾では，夏季の下層で溶存酸素（以下，DO）に乏しい貧酸素水塊が発生し，海洋環境にとって深刻な問題となっている．貧酸素水塊は富栄華化の結果起こる現象で，赤潮と表裏体の関係にある小　 海水のDO濃度は，大気中の酸素が海面を通して溶け込んだり，表層での植物プランクトンの光合成などによる供給と，有機物の分解に伴う消費などのバランスで決まっている．富栄養化が進むと，植物プランクトンが増加し，その死骸の分解に際して消費されるDOが増加する．その結果，DOの供給と消費のバランスが崩れ，消費が供給を上回る状態が続くと貧酸素化が進行する．言うまでもなく動物が呼吸し，生きていくためには酸素が必要である．陸上では空気中の酸素を利用しているが，水中においても事情は同じである．従ってDOに乏しい水塊の形成が生物にとって好ましくないことは言うまでもない（今林，1989）い　 ここでは広島湾を例に貧酸素水塊の分布と歴史，その形成、維持、崩壊過程を概観し，最後に貧酸素水塊の慢性化がもたらす生態系への影響について述べる．