サツマイモ塊根の肥大に対する塊根周囲の湿度の影響

摘要

サツマイモ（Ipomoea batatas Lam.）は不定根の局所的な肥大によってシンク器官である塊根を形成し，この塊根には多量の光合成産物が蓄積される．塊根は通常土壌中で肥大するが，水耕栽培においては塊根を空気中に暴露し暗黒に保てば塊根が肥大することが示されている（Uewada，1990；Eguchietal．，1996）．著者らはこれまでに，塊根を制御空気中で肥大させるサツマイモ水耕システム（Egucbi etal．，1996）およびレーザマイクロメータを応用した塊根体積オンライン計測システム（Eguchieta., 1997a）を開発し，これらのシステムを用いてサツマイモ塊根肥大の動態を解析した結果，塊根肥大には規則的な日変化が認められ，夜間に比べると昼間の塊根肥大は著しく抑制されることを明らかにした（Eguchi etal．，1997b）．さらに葉の水ポテンシャルの動態や地上部環境の変化と塊根肥大との関係を解析し，地上部での蒸散が植物個体の水分状態の変化を通して塊根肥大に大きく影響することを明らかにした（Eguchietal., 1998）．このことは，塊根における水収支と塊根肥大との間に密接な関係があることを示唆している．植物体を構成する成分の大部分が水であり，果実や塊根，塊茎などのシンク器官の大きさの日変化は主に維管束をとおってシンク器官に流入する水量とシンク器官の表面からの蒸発による損失水量の収支に依存していると考えられる．シンク器官の周囲の湿度条件は蒸発による水分損失に直接影響することから，サツマイモ塊根の肥大は塊根周囲の湿度に影響されると推察される．土壌の極度な多湿や乾燥が塊根収量を著しく低下させること（Noguchiand Sugawara，1940）はよく知られているが，塊根肥大と塊根周囲の湿度との関係についてはいまだ十分な知見が得られていない．多湿に関しても水蒸気濃度の間接的な影響，たとえば，塊根を水に浸さなくても表面が濡れる程度で塊根組織内部へのO_2の拡散が減少することで塊根のO_2吸収能が減退して肥大を抑制しうること（Kumano and Fujise，1975）や，多湿土壌中での通気不足からくるCO2濃度の上昇により根の養水分吸収が抑制されて塊根形成が抑制されうること（Kitaya etal．，1992）が示唆されているのみである．