スイスの空間計画

摘要

ハ氏（Beat Schwarzenbach）を招いて講演会を開催した。 同氏は、1977～78年にスイスのチューリッヒ連邦工科大学からの交換留学生として東京工大に在学していた経験があり、現在スイスのトウールガウ州の計画コンサルタントとして第一線で活躍しているプランナーである。 シュパルツェンバッハ氏の在日当時東京工大の大学院生であった現千葉大学園芸学部助教授木下勇氏は、同大学院で同氏と知り合い、その後、逆に東京工大からの交換留学生としてチューリッヒ連邦工科大学に留学して交流を深め、現在まで引き続き同氏と交友を続けている。 この講演会も木下氏の紹介と斡旋によるものであった。 スイスの空間計画は、わが国にはまだ十分に紹介されていないが、独自の理念と性格をもち、住民投票という独特の方式と住民参加に支えられたユニークな計画である。 本書は、この特徴的なスイスの空間計画の全体像を明らかにするため、シュバルツエンバッハ氏の講演の記録を一つの材料とし、同氏に追加寄稿を求め、また、関連文献を調査し、その一部を翻訳する等により取りまとめたものである。 スイスでは、1980年に空間計画法が制定され、連邦の調整権限が強化され、国全体の計画体系が整備された。国土から市町村の土地利用までの空間の秩序を、公共の責任において、しかし地方分権、直接民主主義を尊重しながら形成しようとする考え方に基づく計画体系である。 具体的には、各州の基本計画が策定され、これが市町村の土地利用計画、ゾーニング計画に反映される。 人口動態予測に基づく総量規制によって開発と保全の調整が徹底して行われる点に特徴があり、また自然保護法やふるさと保全法とリンクした景観整備、計画の市民への情報公開と市民参加といった点も特徴的である。今日の国際的な経済圏の拡大とともに、ネットワーク都市という計画単位を超えた計画の連携の考え方にも柔軟に対応している。